クールでホットな消えモノと女優【6】
映画銀幕パークのジョージ松田です。
スタッフ的には、当たり前になっている
ような事でも、映画ファンの方との
やりとりで、驚かれるたり、疑問・に
思われるような
現場でのシチューエーションを
交えて、現場の様子から映画作りの
メイキングをピンポイントで書いてみます。
今回は
「きえもの」です。
映画やドラマでは、飲食のモノ
の事を「きえもの」と言います。
食べたり、飲んだりすると映像
的に消えてしまう事からきています。
飲食なんて、だれもが毎日している
ことなので、何も難しくないと
思うかとおもわれますが?
撮影的には、かなり難しいシーン
になる事が多いので、その辺りを
今回は書いて見ます。
■消えものと女優のクチ
「きえもの」は、デパートなどでは
贈り物などで、使うとなくなる
消耗品の事を言います。
油とか、洗剤、入浴剤、食品などで
タオルだとか、食器などはモノとして
残るものなので、きえものとは言いません。
また、映像ではない舞台では
小道具や美術で、壊したり消耗する
ものの事も、きえものと言います。
毎回、投げて割る皿とか、破く紙
バットをへし折るとか、ロウソク
なども、きえものと言います。
ですが、ドラマや映画では基本的に
食べ物や飲み物の事です。
では、なんで撮影の飲食が大変なのか?
例えば、テーブルで4人が食事する
シーンがあり、女優2名、男優2名
が、食事しながらの会話だとします。
NGが出て、もう1度となると…
きえもの係の方は、そのカットの
頭の状態に、食べ物や飲み物を戻します。
Aの男優が肉を2切れ食べて3切れ目を
食べていたとこでのNGなら、3切れ戻します。
Bの女優がポテトを2本食べてたら2本追加します。
つまり新品ではなく1つ前にもどします。
タイムマシンですね。
特に大変なのは、Cの女優はワインを
1クチ飲んでいたら、その分何センチ
減ってたかを記録していて、上から
何センチまでつぎ足し戻しながら
口紅を指で拭いていたら、それらも
1つ前に戻します。
特に女優さんは、気を使うシーンで
おしとやかに食べる芝居もあれば
急いで食べるシーン、元気に食べる
泣きながら食べる、怒りながら食べる
酔っ払いながら食べる時でも…
綺麗に食べたいんです(^^:
クチの廻りに、食べ物やソースが
ついたのが解ると、自分でNGにして
しまう事も少なくありません。
女優さんはクチ(あご)が小さいので
大きなクチを開けないと、かぶりつけ
ない積み上げたハンバーガーなども
上手く食べれずNGになる回数が多く
何個もハンバーガーが用意されていて
メイクさんやマネージャーさんの
お昼は、ハンバーガーになります(^^:
ピザなども難しく、クチの開け方
以外にも、チーズののびがよく無い
のでNGで、ひと口でも…かなりの
ピザを食べる事になります。
また、スイカも「種」があるのと
果汁が多いので難しいです。
カレーパンやメロンパンも、パン屑
が、ポロポロ落ちるのでNGが多くなります。
シャンパンを開けるとか、注ぐ
場面も、なかなか1発OKになりません。
■映像と予算
映画たドラマには、製作費があり
使ったかどうか?は、映像に映るか
どうかと言う暗黙の決まりがあります。
つまり「映るものは予算が通る」という事です。
出てこない、スーパーカーのレンタル
とか、3人しか映らないのに100名の
エキストラの予算は出ません。
ですが、難しいのは「きえもの」です。
カンがいい方は御解かりかと思いますが
映像では1つしか食べてないものも
現場では5つ食べていたりします。
1本しか飲んで居ない牛乳やコーラも
5本飲んでいたりします。
また、会話だけでコーヒーなどが
テーブルに置いてあるだけと言う
場面や、はり込みの車内で
さい入れのアンパンを食べようと
したら、動きがあり1クチも食べられ
ないと言う場面もあります。
難しいのは、寿司とかキャビア
高級な食材が映像の数と合わないのは普通です。
もちろん、用意した数全部使わない
事も大半なので、それらの製作予算
管理も、製作サイドは頭の痛いシーンです。
なので、食べ物の数で…
NGは、後2回(2個)までだぞ。
などと、言われるプレッシャーとも
俳優さんは戦わないといけませんし
女優さんは、自分の「綺麗」な食べ方
のラインを下げることもあります。
■クール&ホット
「きえもの」には、食べ物も
飲み物も、冷たいモノと
温かい(熱い)モノがあります。
これも、難しい要素の1つになります。
エキストラなどに参加した体験が
ある方は解ると思いますが
映画というのは、特に1カット
1カット、時間を掛けます。
その為に、実際に食べない時で
アップでは無いソフトクリーム
などは、実は作り物だったりします。
食べる直前で、本物と交換して
女優の鼻の頭にクリームが
着いて~可愛い♪ とかになります。
間違っても、ソフトクリームが
ボタボタ垂れて、手や服が汚れて
ベタベタなんて事にはなりません。
温かい食べ物も難しく、BBQの
シーンでは、煙が視覚的に重要で
臭いなどは、映像からは伝わらない
ので、煙がBBQらしさの最重要アイテムです。
ですが、煙は止まってくれないので
1カットずつ…上手く繋がりません。
なので、長いシーンとして撮影
する事になります。
しかも、食べながら、台詞を言って
煙を入れ込んで撮るので
台詞のNGも多く、煙が少なすぎても
多過ぎてもNGになります。
屋台で、おでんを食べるシーン
なのも、ありがちですが…
湯気の加減が煙より難しく
メガネの俳優さんや、カメラの
レンズも、湯気は大敵なので
難しいシーンになります。
さらに、俳優さんとカット割りの
難しいのは、ラーメンや蕎麦やうどんです。
音声の問題で、「すする音」が
在るので、複数人が食べている
場面でも、1ショットの時に
台詞があるとか、1ショットで
食べる事自体が重要な場合は
作品的には、他の俳優も食べて
いるのですが、実際には背中など
から撮られている俳優さんは
食べてる「フリ」だけで、すする
音をたてないようにしています。
台詞の間に、ズズズ~~とか言う
音が入ると、映画館で観客は逆に驚いてしまいます。
本当は、音がしない方が不自然
なんですけども、映画的には
他の俳優の食べる音が重なる方が
違和感があったり、台詞が聴き
ずらくなるんです(^^:
■食事の音とアングル
食べたり、飲んだりすると音が
当然ですが…出ます。
台詞も音ですし、飲食を入れる
のもクチで、台詞を出すのも
クチなのは、日常考えませんが
映画やドラマでは、考える事なんです。
レストランのシーンなどで
難しい音の1つは、実はノイズです。
近年は、スピーカーに板とか
ガラス窓に着けると、音が広がったり
大きく聞こえるのを体感した方
いるかと思いますが
学校の教室の机や、会社の机に
休み時間などに、耳をぺタッと
着けると、その部屋の空間の
ノイズがモノ凄い事に気ずけます。
つまり、音は反射していて
人間の耳は、会話の時には
相手の声に集中していて、別の
音を排除しているだけで、マイクは
反射音も全て拾います。
だから、不思議なレストランで
撮影します。
どう不思議かと言うと、メインの
俳優さんのいるテーブル以外の
後に映るエキストラさんの台詞は
「-------」無音です。
クチをパクパクしているだけで
笑ったりしてますけども、何も
声を発していません。
その上、スプーンやナイフも
ニセモノで「ゴム」で出来ている
モノを持たされます。
時には、グラスなどもシリコン
のニセモノで、ニセモノの食材
を使用する事があります。
つまり、音を出さない状態に徹します。
その逆に、音を必用とする場合
もあります。
ラーメンや蕎麦などの麺類は
海外では下品ですが、日本の
場合は、蕎麦を無音ですするのは
美味しく見えません。
スパゲッティやパスタも麺類も
在るのですけども…不思議な文化です。
なので、美味しいそうな音が
出ないと、NGになりますが
女優さんの場合、多くのスタッフ
が廻りに居るので、恥ずかしがり
音が小さい=美味しいそうに見えない
で、NGが連発したりします(^^:
ワインやシャンパンを、開ける
「音」というのも、必要な音
なのですが、意外に「良い音」が
出ないで、共演者もコケると言う
のが多くて、センを抜くアップで
別撮りにしたり、「ポン」と言う
音だけ効果音として足す事も
ドラマには多いです。
また女優さんは、おにぎりや
寿司(握り寿司)を食べるのも
クチが小さい方は、難しいので
綺麗に見えるように食べるのが
難しい、スタッフが時間を覚悟
する食材です。
サンドイッチや、ハンバーガー
なども、クチを開けるタイミング
が、速すぎて、まだクチの近く
に、ハンバーガーが来てないのに
大きなクチを開けて、顔の方が
待ってしまう場合が多く…
画的には…綺麗ではなくなってしまいます。
ワインやシャンパンのグラス
に口紅が着くのを、指でスッと
拭き取る仕草なども、仕草の
前に、綺麗に口紅がグラスに
着くかといえば…なかなか難しく
なんども、口紅をメイクさんが
塗り直したり、上手く着く
口紅を探してくれたりするので
飲む直前や、其のシーンだけ
口紅が少し違う場合もあります(^^:
其処までは、男性は見ないの
ですけども、女性やメイク関係
の仕事をしている方は、女優の
クチビルには、注目しているので
難しく、直しの度にシャンパンの
量や泡なども調整する「きえもの」
の中でも、大変なわりに…あまり
シーンとしては重要では無い分部です。
また、女優さんが缶やペットボトル
の蓋が開けられない事も、少なく
なくてNGになる事もあるので
これも1度開けておいて、音を足す
事もあったり、練習してくる
女優さんもいて、ランチに助監督の
お茶のボトルを開けてたりすると
知らない人が見ると…誤解を受けます。(^^:
「きえもの」と言うのは難しい
のですけども、どれも日本の
きえものは、美味しいので
俳優さんは、意外に楽しみにしている
方も多い、変わった部分です。
映画やドラマを見る時に
「きえもの」のシーンだ。と
少し思って、見て貰えたら
いろいろな工夫を感じれるかと思います。
おしまい。
ASIN : B07NXQB5KB 時間 : 1 時間 40 分 詳しく見る。 |