お薦め名画「暴走機関車」
映画銀幕パークのジョージ松田です。
今回の御薦め名画は暴走機関車です。
名画というより、迷画かもしれませんが
1985年の春過ぎには、映画誌などでは
とりあげられ、公開前もメディアで話題になった作品です。
ただ、作品そのものというよりも
アメリカ映画ですが、原案が黒澤明と
言う部分が、クローズアップされ
日本では話題になっています。
その辺りの海外の差やズレからの
見方も在るのが、暴走機関車と言う
映画なので、その辺りをメインに書いて見たいと思います。
■原案 黒澤明
この暴走機関車の企画は、1965年頃から
黒澤明のハリウッド進出用の作品として
練られた作品でした。
黒澤明と、黒澤作品の脚本を担当した
菊島隆三や、小國英雄が書いた脚本を
基にしているが、結果的には大幅に
改稿された為に、「原案」としてしか名前は残されて居ません。
黒澤は、機関車をメインの映画を撮って
みたいと言う構想は持って居ましたが
実際に、この作品のモチーフになる
事件が、アメリカで起きています。
アメリカのニューヨーク州で、四台連結の
大型ディーゼル機関車が動き出してしまい
機関士を振り落として
運転が出来ない3名の男をのせて、走り出し
最高時速145キロで1時間45分暴走した事故が起きています。
今なら、携帯電話などで停める術を伝える
とか、安全装置なども進化していますが
当時は、この事故を防ぐ術がなく
今よりは、身近に起きるかもしれないと
思える事故のニュースでした。
この事故をベースにした企画にアメリカの
タイム・ライフ社のへドリー・ドノバン会長は
黒澤の自宅を訪れて、この企画を積極的に
応援したいと伝え、そのドノバンの友人でもある
エンパシー・ピクチャーズの社長ジョセフ・レビン
も、英訳された企画段階の脚本に惚れ込み
黒澤プロとの間で契約交渉が始まる程
この機関車の動き出しは、監督・黒澤明の
ハリウッド作品1号になるのに充分なスタートでした。
■導入
脚本は、ハスラーなどの脚本家でもある
シドニー・キャロルが、脚色した段階で
大の黒澤ファンのヘンリー・フォンダまでが
主演に手を上げ、一見順調でしたが・・・
追加された部分で、主役が暴走を阻止する為
次々と秘策を繰り出す鉄道安全管理員と言う
部分にまず、黒澤はNOとしています。
確かに、暴走するのに偶然専門家が乗っている
のは…スピードでバスの暴走を停める手段を
持つ専門家が同乗しているくらい不自然で
つまらない事になります。
また、機関車を暴走させてしまう脱獄因2人を
刑務所内部でのエピソードからから丁寧に
描いてしまったことにひどく腹を立てていた。
映画と言うのは、主役のどこからか始まり
どこかで終わるのが映画です。
例えば、刑事モノでイチイチ主役の刑事が
配属されるとこから描く必要は無く
泥棒が主役の作品で、なぜ泥棒になったか?
なんてとこから始めなくて言い訳です。
導入が、どこから始るか?
コレだけでも、一流の映画監督と二流の差が出る大事な部分です。
黒澤は、この変更された刑務所からの導入を
「必要ないんだよ、あんなものは。
機関車が動き出して映画が動くんだから。」
と、言っています。
この部分に関しては、黒澤の方が一流なのだと思える部分です。
■監督とディレクター
日本映画は、監督が中心になって1本の映画が
製作され、監督が言う事が全てというような
傾向が、今でもあるのが特徴です。
アメリカの場合のディレクターは、演出であって
芝居を演出するのがメインで、極端に言えば
脚本にもタッチせず、撮影後のフィルムも
どこをカットするかは、プロデューサーが
決めてしまうのが普通な傾向にあります。
もちろん、監督と脚本を兼任する人や
編集をされてしまうのが嫌だと
監督と製作を兼任する方も居ます。
ただ、役割以上に・・・
日本の「監督」と言う地位は、特に黒澤さんの
ようになると、明らかに反対するスタッフは
略居ないと言う事も、この作品の企画から
脚本の段階で、迷走してしまった要因の1つだと思います。
その具体的な部分が、センスなのかと思いますが
黒澤が完成作品で、たびたび挿入される回想
シーンに激怒して、みっともないと言うように
暴走列車の暴走を見たいのに、回想を入れるのは
スポーツの試合進行中に、チームや選手の紹介を
入れるようなモノで、見せ方としての選択ミスだと思います。
これも、アメリカ映画なので監督ではなくて
プロデューサーの選択なのかもしれませんが・・・
■まとめ
日本では、黒澤明は有名で世界の黒澤と言われ
海外の賞を受賞する映画監督として誰もが知って居ます。
ですが、海外でのアキラ・クロサワは
もっと偉大な存在で、この作品の企画時にも
クロサワのハリウッド進出は、四半世紀前
アルフレッド・ヒッチコックが英国から来たとき以来の快挙だ。
とも言われる程で、ヘンリー・フォンダも
クロサワだから手を上げた訳で、日本と海外では
重なる部分もありますが、その評価や存在に
かなりズレがあるのも確かです。
その為か、アメリカ側は企画初期の稿を出発点
として、練り上げる予定でいたのは巨匠の
作品を少しずつ理解していく予定でしたが
対して日本側は、限りなく完成に近い稿として
入ったので、なんども繰り返す脚色・変更が
まったくズレた作業になってしまいました。
しかも、最もアメリカ側が困ったのは当時の
日本からのアメリカ人像でした。
コメディなら別ですが、そんな事はしないと
言うポイントが見えて無い時代なのも要因で
今で言えば、日本人は毎日寿司を食べたりしないし
挨拶で両手を合わせてお辞儀したりを、毎回
するわけでは無いのと同じで、御互いに理解
し難い部分が、まだまだ多くあった時代でした。
此れから、それらを直そうとした側と
もう出来てると信じた部分側が、ズレてる事自体が
見えなかったので、この作品は残念ですがお蔵入りされ
1985年に、原案・黒澤明として映画化されたのが暴走機関車です。
この機関車の先頭が潰れている様子も
黒澤の案で、悪魔のように見える画的なセンスです。
なので、この作品は面白い分部と、なんで?と
思える部分が、個人的にはあると思っています。
そんな何十年も迷走した暴走を、未見でしたら
是非チェックしてみてください。
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■作品データ
監督 アンドレイ・コンチャロフスキー
脚本 ジョルジェ・ミリチェヴィク
ポール・ジンデル
エドワード・バンカー原案
黒澤明
菊島隆三 NOノンクレジット
小國英雄 NOノンクレジット製作 ヨーラン・グローバス
メナハム・ゴーラン製作総指揮 ロバート・A・ゴールドストーン
ヘンリー・T・ウェインスタイン
ロバート・ホイットモア音楽 トレヴァー・ジョーンズ
撮影 アラン・ヒューム
編集 ヘンリー・リチャードソン
製作会社 キャノン・フィルムズ配給
アメリカ合衆国 The Cannon Group
日本 松竹富士公開
アメリカ合衆国 1985年12月6日
日本 1986年6月7日上映時間111分
製作国 アメリカ合衆国
■キャスト
マニー ジョン・ヴォイト
バック エリック・ロバーツ
サラ レベッカ・デモーネイ
フランク・バーストゥ カイル・T・ヘフナー
ランケン刑務所長 ジョン・P・ライアン
エディー・マクドナルド ケネス・マクミラン
デイブ・プリンス T・K・カーター
ルビー ステイシー・ビックレン
ジョナ エドワード・バンカー